ショパンの作品を鑑賞する

アクセスカウンタ

zoom RSS ショパン:練習曲 第5番 変ト長調 作品10-5「黒鍵」

<<   作成日時 : 2013/05/15 13:03   >>

驚いた ブログ気持玉 3 / トラックバック 0 / コメント 0

♪今日の試聴BGM♪

ショパン作曲:練習曲 第5番 変ト長調 作品10-5 「黒鍵」 by Tomoro




Chopin : Étude No.5 in G♭ major Op.10-5 /Tomoro

● 作曲年:1833年
● 出版年:1833年
● 献呈者:フランツ・リスト

 【ジャンル解説】
練習曲(エチュード)は、その名の通り、楽器の演奏技術を習得する手助けとなるように考慮された音楽作品です。
一口に練習曲と言っても、これには大きく分けて3種類あると言えます。

  1. 《ハノン》(シャルル=ルイ・アノン:Charles-Louis Hanon, 1819−1900)に代表されるような、機械的な運指の反復練習のみに特化して、楽曲としての体裁を成していないもの。
  2. 《ツェルニー》(カール・チェルニー:Carl Czerny, 1791−1857)に代表されるような、一応楽曲としての体裁は成しているものの、あくまでも練習曲であって演奏会で弾く事を目的としないもの。
  3. 《ショパン》や《リスト》(フランツ・リスト:Franz Liszt, 1811−1886)に代表されるような、プロが演奏会で弾く事を前提に、最高度の演奏技術を要求すると共に性格的小品としての芸術性をも兼ね備えたもの。


 【作品解説】
ショパンの《練習曲 第5番 変ト長調》は、《12の練習曲 作品10》の第5曲目です。
ピアノの黒い鍵盤ばかりを使うため、一般に「黒鍵のエチュード」と呼ばれ親しまれています。


ショパンはこの曲について、友人に宛てた手紙で次のようにコメントしたとされているのですが…
「…(略)…ヴィーク(※クララ。後のシューマン夫人)は僕のエチュードを巧く弾いたかい? どうして彼女は他にもっと良いものを選ばなかったのだろう――それが黒鍵のためのものだと知らない人には、少しも面白くないだろうに! 黙って座っていた方がまだ良かった。…(略)…」
(※1839年4月25日付『マルセイユのショパンからパリのユリアン・フォンタナ宛の手紙』より)

…これ、本当にショパンがこんな事を書いていたのでしょうか? 私にはどうしても信じられません。

何故ならショパンと言う人は、自分の作品を文学的に解釈されるのを嫌い、だからこそ、自らも自分の作品に対して解説めいた事をほとんど言わないからです。
稀に言う事があったとしても、決して具体的な事は言わず、あくまでも抽象的で間接的な事しか言いません。
したがって、ショパンの手紙にあのような事が書かれている場合、まず「贋作の疑いがある」と考えてみるべきではないかと思われるのです。

それにこのエチュードは、この時すでに出版されてから6年も経っていた訳で、それが黒鍵のために書かれている事ぐらい、この曲を知っている人なら誰でも常識だったはずだからです。
それをわざわざ、同じ音楽家でもあるフォンタナ相手に今更言うでしょうか?

また、確かにこの曲は黒鍵のために書かれてはいますが、しかしそれが全てではない事も事実で、そんな事ぐらいショパン本人が分かっていないはずがありません。
実は、この曲を弾いた事がある人、あるいは楽譜を見た事のある人なら知っていますが、この曲は完全に黒鍵だけで書かれている訳ではありません。白鍵も少し混じっています。
ショパンが本当に黒鍵のためだけに練習曲を書こうと思ったのなら、最後まで白鍵を一つも使う事なしに書き上げる事だって出来たはずです。それなのに何故そうしなかったのでしょうか? それは彼が、自身に湧き上がる音楽的霊感を無視する事が出来なかったからです。つまり、そこに白鍵を混ぜればもっと良い曲になる事が分かっている以上、ショパンはそうする事に何の躊躇もないと言う事なんですね。
もしもこれが、作曲家として才能のない人間だったら、本当に黒鍵だけで曲を書き上げて、この手紙に書かれている通り「少しも面白くない」曲になっていた事でしょう。
要するに、ショパンは、この曲が単に「黒鍵のためだけに書かれたつまらない練習曲」ではない事を、自分でちゃんと分かっていると言う事なんです。
したがって私の考えでは、おそらくこの手紙は贋作で、ショパンが書いたのではない可能性が高いと思います。こんな事を書くのは、音楽の事をよく分かっていない人間、もっと言えば、ショパンの音楽の本質をよく分かっていない人間でしかあり得ないのではないでしょうか。

この手紙には、他にも不自然な点がたくさんあります。
まず、この宛先人であるフォンタナは、ワルシャワ時代からの友人で彼もまた音楽家でしたが、当時はショパンのマネージャーのような事をしていて、ショパンの仕事の手伝いや身の回りの世話などを献身的にしてくれていました。なので、ショパンが彼宛に手紙を書く時、必ずそういった用件を伝えるために書いていたのです。ところが先の手紙には、肝心のその用件が何も書かれていないんですね。
この二人は、普段は同じパリに住んでいますから、ショパンがパリにいる時は直接口頭でやり取りをするので当然手紙は書きません。ショパンがパリを離れている時にのみ、仕事やその他の用件で手紙をやり取りしなければならない事になるのです。そんな訳ですから、かつて離れ離れに暮らしていた「単なる友人」のティトゥス・ヴォイチェホフスキに手紙を書いていたのとは訳が違い、ショパンが何の用件もなしに、ただ世間話をするためだけのためにフォンタナに手紙を書くなんて事はまず考えられない事なのです。

しかも、手紙の内容が、この前後に書かれたフォンタナ宛やグジマワ宛の手紙、あるいはジョルジュ・サンドが友人宛に書いた手紙と、あまりにも重複しすぎています。元来が筆無精のショパンが、同じような話題をただ繰り返すためだけに手紙を書くなんて事は非常に考えにくい事です。
つまり贋作者は、それらをネタ元にして新たな手紙を捏造している可能性が高く、これは、ショパンの贋作書簡には必ず見られる特徴でもあります。
たとえば、上記のクララ・ヴィークについても、ショパンはこの一ヶ月ほど前に書いたフォンタナ宛の手紙にこう書いているのです…
「…(略)…もしも君がクララ・ヴィークを気に入ったのなら、君は正しいよ;彼女は誰よりも上手に弾く。もしも彼女に会ったら、僕から宜しくと伝えておいてくれたまえ、あと彼女の父親にも。…(略)…」
(※1839年3月『マルセイユのショパンからパリのユリアン・フォンタナ宛の手紙』より)

この手紙には日付がありませんが、仕事上の伝達事項が書かれている事からも、ショパンがフォンタナ宛に書いた手紙として疑わしい点は特に見られません。

この当時、クララはパリを訪問中でした。
《「お手をどうぞ」による変奏曲》の記事でも書いた通り、クララは11歳だった1830年に、ショパンのこの変奏曲をいち早くレパートリーに取り入れて話題になっていました。
彼女の父フリードリヒ・ヴィークは、そんな娘を後押しする意味でも、弟子のシューマンが書いた《「お手をどうぞ」による変奏曲》の批評文を発表前にちゃっかり盗用して雑誌に掲載しようと働きかけ、その過程で、パリに着いて間もなくのショパンにもそれを送ったりしていました。
ショパンは、ヴィークの批評文自体は笑い飛ばしていましたが、その後シューマンとの交流を通してヴィーク父娘ともお近付きになり、クララの才能を高く評価して“僕の作品を弾ける唯一のドイツ人”とまで言うようになっていたのです。
だからこそ、フォンタナにも”彼女は誰よりも上手に弾く”と書いていたのに、それがどうして、ただ単に《黒鍵のエチュード》を弾いたと言うだけの理由で、いきなりショパンからあんな言われ方をしなければならないのでしょうか? クララが《黒鍵のエチュード》を巧く弾けるかどうかなんて、そんな事はショパンなら聞かずとも分かっているはずなんです。
なので、私にはとてもショパンのコメントとは思えないんですね。

ショパンの手紙には非常に贋作が多いのですが、それらを捏造するのは、例外なく、国粋主義的なポーランド人です(カラソフスキー然り、タルノフスキー然り、パウリーナ・チェルニツカ然り…)。
なので、その内容は殊更愛国心が強調されたものになっていて、それ故、リストやシューマン、ジョルジュ・サンド等の、同時代の外国人の芸術家達を貶めるような事も多く書かれています。
先の手紙にも如実にその傾向が現れていて、ここでは初期のショパン作品を広めるのに一役買ってくれたクララ・シューマンが餌食にされてしまってます。

とにかくです、この手紙が本物であれ偽物であれ、こういう偏狭と言うか狭量な意見はあまり聞きたくないものですね。かえって名曲のイメージを損なう事にしかならないと思いますから。
それと、ショパンやクララの名誉のためにも…。

ちなみに私は、謎とされているショパンの生年月日に関しては、「1809年3月1日」説を採っております(※その根拠はこちらで)。なので、本稿ではそれに則ってショパンの年齢を数えています。


Copyright © Tomoro. All Rights Reserved.

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ショパンエチュード集  全音ピアノライブラリー の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 3
驚いた 驚いた
面白い

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
ショパン:練習曲 第5番 変ト長調 作品10-5「黒鍵」 ショパンの作品を鑑賞する/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる