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zoom RSS ショパン:ノクターン 第2番 変ホ長調 作品9-2

<<   作成日時 : 2012/10/02 09:51   >>

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♪今日の試聴BGM♪

ショパン作曲:ノクターン 第2番 変ホ長調 作品9−2 by Tomoro




Chopin : Nocturne No.2 in E flat major Op.9-2/Tomoro
● 作曲年:1830〜1831年
● 出版年:1832年
● 献呈者:マリー・プレイエル夫人


 【ジャンル解説】
ノクターン(Nocturne)と言うのは英語ですが、同じ綴りのフランス語「ノクチュルヌ=夜の」を語源とし(※もっと遡るとラテン語の「Nox=夜」に行き着くのだそうです)、音楽的な意味合いとしては、イタリア語の「セレナータ」や、あるいはドイツ語の「セレナーデ、ナハト・ムジーク」と同じ流れを汲むもので、元々は、親しい人や称賛すべき人のために、夕方や夜に野外で演奏される音楽の事です。
日本語では「夜想曲」と訳されています。
現在では、恋人のために歌う音楽と言うイメージが強いかもしれません。
これを最初にピアノ曲にして「ノクターン」と名付けたのは、アイルランドの作曲家兼ピアニストのジョン・フィールド(John Field 1782−1837)でした。
ショパンは、このフィールドの作品から直接影響を受け、自らもノクターンを作曲するようになりました。
現在では、「ノクターン」と言えばショパンの代名詞的な音楽ジャンルとも言えるでしょう。


 【作品解説】
この曲は、ショパン作品の中でも最も有名なものの一つで、《3つのノクターン 作品9》としてまとめられた中の第2曲目です。
曲の入り方が、同じ8分の12拍子で同じ変ホ長調で書かれたフィールドの《ノクターン 第1番》と全く同じです。

この作品は、1832年に出版されると瞬く間に人気を獲得し、ショパンを人気作曲家の仲間入りさせるのに一役買いました。
ただ、あまりに有名になりすぎたためか、この曲をあまり高く評価したがらない人もいる、そんな作品でもあります。

パリ時代にショパンに師事していたレンツが、次のような証言を残しています。
「この作品は一見したところ無邪気で罪のないものに思えるが、いざ演奏となると格段に難しいものだ。作曲した当のショパンも、よくそう言っていた。…(後略)…」
(※ジャン=ジャック・エーゲルディンゲル著/米谷治郎 中島弘二訳『弟子から見たショパン』(音楽之友社)より)


この時ショパンは、“エスプレッシーヴォ(表情豊かに)で歌いながらも、感傷に溺れてはいけません”とも言ったそうですが、この曲を演奏する上で最も難しい点とは、つまりその事に集約されるのではないでしょうか。
これほどまでに甘美な旋律に対して「感傷に溺れるな」と言うのはけっこう無理な注文で、たとえば、この曲をあまり評価したがらない人と言うのは、たいがい人気作品に付き物の「通俗性」を嫌う傾向がありますが、この曲を感傷的に弾く事こそが正にそう思われる一番の原因なのではないでしょうか。


また、レンツは次のようなエピソードも紹介しています。
「かの美しきカミーユ・プレイエル夫人に献呈された有名なノクターン変ホ長調作品9の2で私はショパンをもっとも悩ませた。…(中略)…
このノクターンはまさに、さらに興味深い低音(バス)の上に創作されたフィールドの接ぎ木である。一八四二年、この作品は大絶賛されていたが、今日では、あとになって作曲された作品に取って代わられている。とりわけ、より念入りに磨きをかけ昇華された形式の構想による、デュペレへ捧げられた二つのノクターン作品48、ハ短調と嬰へ短調によって。
ショパンは生徒の演奏に満足したとき、細く尖った鉛筆で楽譜の下に×印をつける習慣があった。私ははじめてその紋章をこのノクターンで得、もう一度弾いて二つめを獲得した。私はもう一度繰り返した。
「もう勘弁してください! 私はこの曲が嫌いなのです」
とショパンは言った(彼は当時、この分野でより高度な着想を得ていたのだ)。…(後略)…」
(※ヴィルヘルム・フォン・レンツ 著/中野真帆子訳「パリのヴィルトゥオーゾたち ショパンとリストの時代」より)


人気作品と言うのは作者本人にとっては痛し痒しみたいなところがあって、評価されるのはもちろん嬉しいけれども、そればっかりとなると…と言う感じなんでしょうね。
この時ショパンはレンツにこうは言いましたが、ショパンがこの曲を気に入っていた事を裏付けるエピソードとして、かつて婚約までいった女性マリア・ヴォジンスカ宛のカードに、ショパンがこの曲の冒頭の数小節を書いて贈ったと言うのがあります。
ショパンにとってこのノクターンは、正しく恋愛感情そのものだったのかもしれませんね。
ショパンとヴォジンスカとの恋愛期間は1835年から1837年にかけての2年弱(※当時26〜28歳)で、レンツにレッスンしていた頃にはもう5年も前の話になっており、ショパンはすでにジョルジュ・サンドと交際していました。


この曲には、ショパンが弟子の楽譜に書き込んだ様々なバリエーションがあって、最新のナショナル・エディション(エキエル版)にはその全てが掲載されています。が、ちょっと装飾過多な感じがして、私は個人的にそれらがあまり好きではありません。
本稿でその例をお聴きかせしようかとも考えたのですが、あまりにもおびただしい数なので(しかも最も重要な事として、普遍的効果の感じられるものが皆無なので)、とても手を付ける気になりませんでした。
なので、もしも興味のある方は、ぜひ楽譜で確かめてみてください。

このヴァリエーションについては、エーゲルディンゲルが次のように指摘しています。

「作品9の2にはフィールドの影響が歴然としている。同時代の人々もこれに気づき、ショパン自らもフィールドからの影響を認めているのだ。そこで彼は自分の作品に装飾音をつけることでオリジナルな性格を持たせ、フィールドに見られるような少々紋切型の表現を避けるようなピアニズムや、即興的な構想を反映させたのである。それに作品9の2は発表されるとたちどころに聴衆や演奏家――ディレッタント(※アマチュア)、プロたるを問わず――にもてはやされ、ためにショパンは苛立ちを覚えるほどだったのである。凡庸なピアニストには弾きこなせないような異稿を作ることで、ショパンはこの作品の流行を防いだのであった。そんなことになれば彼はサロンの作曲家としての名声を得てしまい、ノクターンも感傷的なものになる――彼自身の言葉を借りると――おそれがつよくなりすぎるではないか。」
(※ジャン=ジャック・エーゲルディンゲル著/米谷治郎 中島弘二訳『弟子から見たショパン』(音楽之友社)より)

もしもこの通りなのだとしたら、ショパンの思惑や気分で残した異稿に、後世の我々が惑わされたり踊らされたりするもどうかとも思われるのですが…。

現代では、クラシック音楽となるととにかく楽譜に忠実に弾く事を要求されますが、ショパンの時代においては、その時の気分で自由にアドリブを交えて弾く事が珍しい事ではありませんでした(その精神は、現代ではロックやジャズなどの、その時代の最先端の音楽に受け継がれていると言えましょうか)。
ショパンもまた、必ずしも楽譜に忠実には演奏していなかったと言う証言がいくつも伝えられています。
これらのバリエーションは、そんなショパンの生演奏を垣間見させてくれると言う点では、非常に興味深いものだとは言えるでしょう。

ただし、なんだかんだショパンは、公式の出版譜については改訂版を出すような事はしなかったのですから、ショパンの残した数々のバリエーションについては、あくまでもプライベートなもの、つまり彼の直接の弟子達が特権的にサロンで喝采を得るために用意されたようなもの…と見なし、単にその時代の雰囲気に特化した副産物だと考えるのが、私には妥当なように思われるのです。
この点で私はエーゲルディンゲルとは全く逆の意見で、これらの変奏は、私には、むしろサロン色を一層強めているように聴こえるからです。ショパンは、大きなコンサート・ホールでの演奏会を苦手にしていてあまりやりたがりませんでした。そんな彼にとっては、正にサロンこそが主戦場だったのですから、彼は消して「サロンの作曲家」を見下してなどおらず、むしろその地位を更に高めるべく、だからこそあえてピアノ独奏用の小品の作曲にのみ専念するようになったのだとも言えるのです。


蛇足ですが、1956年のアメリカ映画『愛情物語』(The Eddy Duchin Story)は、実在したピアニスト、エディ・デューチンの生涯を描いたものですが、その中でこのノクターンがメインテーマとして使われ、カーメン・キャバレロの演奏による編曲版『トゥ・ラヴ・アゲイン』としてヒットしました。


ちなみに私は、謎とされているショパンの生年月日に関しては、「1809年3月1日」説を採っております(※その根拠はこちらで)。
なので、本稿ではそれに則ってショパンの年齢を数えています。


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弟子から見たショパン―そのピアノ教育法と演奏美学
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